福岡高等裁判所 昭和42年(て)31号 決定 1967年2月28日
請求人 今村保
決 定 <請求人(被告人)氏名略>
右の者に対る道路交通法違反被告事件について、右の者から上訴権回復の請求があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上訴権回復の請求を許容する。
理由
本件上訴権回復の理由は、請求人提出の上訴権回復請求申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
そこで、検討するに、本件記録および被告人に対する当裁判所昭和四一年(う)第三四四号道路交通法違反被告事件記録によると、被告人は、昭和四一年一二月二八日当裁判所において本件控訴棄却の判決を受け、その上告の申立期限は、昭和四二年一月一一日であつたので、被告人は、同日本件上告申立書を当裁判所に持参提出しようとしたが、叔母の不幸があつたので、同日午前八時ないし一二時の間に佐賀郵便局に赴き、福岡市あての速達郵便物は同日中に配達されるとの局員の回答をえて、本件上告申立書を書留速達郵便で当裁判所にあて郵送した。ところが、右本件上告申立書は翌一二日当裁判所に郵送されたので、当裁判所は同月一六日上訴権消滅後のものとして右上告を棄却した。そこで、被告人は、同月二六日本件上訴権回復の請求をしたものであることを認めることができる。
そして、事実の取調の結果によれば、前記のとおり、被告人は昭和四二年一月一一日佐賀郵便局において局員に右上告申立書封入の速達郵便物は上告の申立期限である同日中に当裁判所に配達されるとの回答をえて、右速達郵便物を郵送したものであるが、右局員が右のように回答したのは、そもそも郵便規則第一〇〇条第一項第一号によれば、午後八時までに配達受持郵便局に到着した速達郵便物は到着後遅滞なく配達されることになつているところ、佐賀郵便局の手持資料によれば右速達郵便物は、博多駅に午後七時一二分に到着することになつており、その後の配達受持郵便局である福岡中央郵便局への到着時刻が分らなかつたので、午後八時までには福岡中央郵便局に到着するものと思い、右のように回答したものであるが、熊本郵政局の定めるところによれば、右速達郵便物は午後八時を過ぎることわずか五分の午後八時五分に福岡中央郵便局に到着することになつており、しかも右速達郵便物は事故のため同日午後一〇時五分に福岡中央郵便局に到着したため、翌日当裁判所に配達されたものであることを認めることができる。したがつて、佐賀郵便局員が右のような回答をし、被告人がこれを信じたのもまことに無理からぬものがあるので、結局被告人は自己または代人の責に帰することができない事由によつて上訴提起期間内に上訴することができなかつたものというべきである。
そこで、本件上訴権回復の請求は理由があるから、これを許容することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 塚本富士男 安東勝 矢頭直哉)